施主の為の家づくりプロセス Archive

#12 竣工引渡し後から家は育ち始める

「#11 建築設計事務所の監理とは?」へ戻る

家づくりは、家を買うこととは異なるという話を再三にわたってしてきたわけですが、
家というのはある意味で、永遠に完成するものではありません。
竣工引渡しによって、一応、コンピューターでいう初期設定が完了したとはいえますが、
その後、家がどのように使われ、維持されていくかは、建主にかかっています。

住みながら少しずつ手を加えたり、リフォームを行ったりと言った話だけでなく、
補修やメンテナンスも重要な要素です。
マンションなどでは管理組合や委託管理会社などがあって、
そこに修繕積立金が住民によってなされて建物の維持管理が行なわれていくわけですが、
戸建住宅の場合は、
建主自身が自ら長期的な予算計画を立てて行っていくことになります。 
定期的な点検や、補修やメンテナンスを怠れば、建物の寿命は短くなりますし、
こまめに行なえば長くなるでしょう。

通常、1年点検、2年点検などは、
施工した工務店側が自発的に行なってくれることも多いですが、
建主の側が、徐々に自主的になっていかないと、いつの間にか点検も滞るようになり、
問題が起きたときにはかなり深刻な状況になっていた、
などということもあるので注意が必要です。
早期発見早期治療は体だけでなく、建物にも言える事です。

点検時期の目安や点検項目については、
下記の住宅金融支援機構のサイトで紹介されている、
「マイホーム維持管理ガイドライン」や、「マイホーム点検・補修記録シート」
なども参考になると思います。

http://www.jhf.go.jp/customer/hensai/hosyu_kanri.html

僕がイギリスの建築事務所で働いていた時、
日本との大きな違いを感じたことの一つに、メンテナンスに対する意識があります。
イギリスでは、建物はメンテナンスをいかにするかが論点になるのですが、
日本では、いかにメンテナンスしなくて良いかが論点になる傾向があり、
極端だと、メンテナンスをしないためであれば、多少住み難かったり、
快適でなくても良いと考える人もいます。 
そもそも何の為の家かという目的に立ち返れば、
このような優先順位のあて方はおかしな話ではあります。

何世紀もの間、同じ建物をリノベーションして使い続けるヨーロッパの文化と、
スクラップ&ビルドで使い捨てれば良いとしてきた文化との違いがあるにせよ、
建物と言うのは、やはりメンテナンスありきで考えるのが健全と、僕は思います。
ましてや、限られた予算で、限られた仕様、性能で建てられた戸建住宅であれば、
なおさら、維持メンテナンスには注意を払うべきでしょう。

そういった、一見、面倒なことも含めて楽しめることが、家づくりの醍醐味であり、
家と建主との関係や、住環境の豊かさといった観点からも、
重要なのではないかと思います。

#11 建築設計事務所の監理とは?

「#10 工務店の選定時期を考える」へ戻る

確認済証が下り、建主と工務店との間で工事請負契約が締結されると、
いよいよ、工事がはじまります。

工事中、僕達建築家は、建主から直接委託された、
建築士法上の工事監理者という立場から、家づくりに関わることになります。
これも、建築家との家づくりと、設計施工一括請負方式の家づくりとの異なる点です。
設計施工一括請負方式の場合は、形式上の工事監理者が、
施工者側で立てられることが一般的だからです。

それでは、この“監理”とはいったいどんなことをするのでしょうか。
これもまた、知られているようで知られていないことが多いかと思います。

工事段階における施工者の役割と、建築家の役割を整理してみましょう。

施工者の役割は、工事発注図書に示される設計意図に従い、
施工上の調整を検討した上で工事工程を組み、各種専門工事業者を手配、
品質管理し、契約に記される期日までに建物を竣工させることです。
これら一連の仕事を、“施工管理”といいます。

一方、建築家の“工事監理”というのは、
工務店の“施工管理”とは、字も意味も異なります。

細かい内容はここでは割愛しますが、
建築家の“工事監理“は、建主から直接委託された第三者の立場から、

①発注図書どおりに工事が行われているかを “確認”すること
②発注図書だけでは網羅しきれない設計意図を施工者に伝達すること

の二つの大きな軸によって成り立っています。

①の確認は、現場での要所確認や検査、書類や写真による報告の確認によって行われます。
公共建築など大きな建物では、現場常駐監理といって、
建築家が現場に常駐してこれらの業務に当たる場合もありますが、
戸建住宅などの小さなプロジェクトでは、
そこまでの予算が、設計監理料として準備されることはまずありませんので、
工程に応じて必要な時期に現場に赴くことになります。

毎日の工事は、工務店によって“施工管理“され、
現場チェックをはじめ元請業者としての自主管理が行なわれているわけですが、
工務店も人間ですから、常に完璧とは限りません。
第三者が現場に赴くことで、彼らが気付かなかった点や、
勘違いして職人に指示していた点などが発見される場合もあります。
建築家の場合、設計者でもあり、計画の内容も熟知しているので、
この”工事監理“が有効に機能するのです。

信頼できるきちんとした工務店に工事を発注していれば、
この現場確認は、工務店の悪意のある手抜き工事を阻止するというような、
ネガティブなものではなく、
間違えや勘違いを極力なくし、より良いものを共に作り上げていく為の、
ポジティブな位置づけとして考えることができるでしょう。

昨今の住宅建設に纏わる様々な問題により、
施工者性悪説が前提に考えられがちな風潮がありますが、
本来は、施工者性善説が成り立たなければ、
良い建物は建てられるものではありません。
建築家が第三者として確認するからといって、
一日中現場に張り付いて逐一業者の行動をチェックすることなどできないわけで、
要所を確認し、あとはそれに準じて行われていることを信じるしかないわけです。
この意味でも、工務店選びはとても重要であると言えます。

このようなプロセスを経て確認された内容は、報告書としてまとめられ、
建主に対してはもちろんのこと、
法定中間検査や完了検査の際に検査機関にも提示されます。

②の設計意図の伝達は、建築家との家づくりの場合、①以上に重要な業務です。
建築家はたくさんの図面を工事発注図書として準備するわけですが、
それらの図面は施工図や加工図とは異なります。
実際に施工を行っていく上で、それらの検討や調整が行なわれる際、
設計者である建築家がその細部の伝達を施工者に行なうのと行なわないのとでは、
最終的に出来上がる建物は全く違ったものに成ってしまう場合もあります。

監理と言うと、現場に行っていればよいと思われる建主も少なくありませんが、
この設計意図の伝達のための工事打ち合わせというのも、
建築家との家づくりの場合はとても比重が高いものです。

「#12 竣工引渡し後から家は育ち始める」へ進む

#10 工務店の選定時期を考える

「#9 どうしてたくさんの詳細図面が必要か」へ戻る

建築家との家づくりでは、工務店と建主との間で締結される工事請負契約は、
実施設計が終わり、確認申請済証も下りた後に行なうことが一般的です。
一方で、非公式な形であれ、工務店選定自体の時期については、
考え方によってわかれるところです。

古典的には、実施設計が修了したあとに、工務店から本見積を取る段階で
工務店を選定するというのがあります。
しかしながら、以前お話したように、全国共通単価と言うものが存在しない
日本の建設産業の現状や、規格住宅や昔の紋切り型の家と違って、
坪単価的な目安が適用できない現代住宅の性格を考えると、
本見積でいくら出てくるかを事前に予測することは難しいと言えるでしょう。

実施設計修了後に始めて工務店から見積を取った結果、
予算に対して1割程度の増減幅の金額がでてくる分には、
調整のしようはあるかもしれませんが、
予算に対して倍近い金額で出てきた場合などでは、
基本設計からやり直しをしなくてはいけなくなる可能性もあります。
既に、実施設計まで修了している段階でこれを行なうことは、
費用と時間の浪費に繋がります。

このようなリスクを回避するために、
正式な選定は実施設計終了後の工事契約時ではありますが、
工務店を設計の初期の段階でしぼり、段階的に概算を何回かとることで、
工事費の目安を把握しながら設計を進めるという方法があります。
ただ、このような、プロセスは、付き合ってくれる工務店とそうでない工務店があります。
工事受注が確定していない案件の見積りに何度もつき合わされるのはごめんだ、
という工務店もいれば、
見積は工事受注の為の営業であり、
なおかつ、
設計の初期の段階からプロジェクトの内容を知ることは、
実施設計の本見積りの際にゼロから内容を把握する手間を省ける、
と考えるところもあります。

工務店を非公式な形であれ一社に絞る時期は、
基本設計概算調整後、ある程度の計画内容に対する工事費の目安がたった時期、
としたいところですが、この時に注意しなくてはならないのは、
そこで、非公式に工務店を一社に絞ったからと言って、
基本設計概算額=工事発注額という保証は得られないということです。

実施設計の過程で、建主自身による変更事項や、法的な調整、
設備・構造などの技術的な調整、そして、施工者による最終的な本見積の際の、
正式な数量拾いや施工方法の検討、専門業者との値交渉などによって、
基本設計概算と、実施設計本見積との間には差が生じる可能性があります。
計画的に目立った変更がなかった場合で、この差が1割程度で説明もつくものであれば、
その工務店の基本設計概算の精度はまずまずだったと評価できるラインと考え、
必要に応じた設計内容の調整を行なうことが一般的です。

逆に、基本設計後、計画的に目立った変更をしていないにも拘らず、
実施設計本見積額との差が倍になってしまったというようなケースでは、
基本設計概算自体の精度が低かったということになるので、
他の工務店から見積りを取り直すことも考えるべきかもしれません。
最も、このようなケースが生じるのは、
基本設計概算額が、常識的に考えられないくらい安い金額だった場合もありえます。
したがって、基本設計概算時の工務店の絞り込みにも注意が必要です。 

建主にとって、
工務店を絞り込む際に見積額が大きな判断基準になることは当然ではありますが、
一方で、
本来は、その工務店の品質管理能力や技術力、
設計事務所の設計した建物の施工の慣れ不慣れ、
アフターケアの良し悪し、
所長の人間性との相性などから総合的に判断し、
その工務店の単価基準に応じて計画内容と工事費を調整していくべきでしょう。

これは我々設計事務所にも言えることですが、
自分達の選定理由が、自分達の能力が必要とされているからと感じる場合と、
自分達が単に安いからと感じる場合とでは、モチベーションもまったく変わってくるからです。
この工務店に施工を頼みたいと言うのがまずあって、
予算にあわせて計画内容と工事費を調整していく方が、
最終的には良い結果を生む場合も少なくありません。
人を使ってモノを作るというのは本来そういうものだからです。

僕のところでは、その意味で、基本設計概算時に工務店を絞り込む際には、
必ずその工務店の所長に直接会って話を聞いたり、
可能であれば建設中の現場見学も積極的に行なうことを助言しています。
建主(工事発注する側)と工務店(工事発注される側)との関係は、
竣工後、アフターケアや瑕疵担保責任などで最低10年は続いていくものです。
また、我々設計事務所がどのような設計や監理を行おうとも、
実際に毎日現場で作業をして施工するのは工務店ですから、
工務店の選定によって建物としての施工品質が左右される場合も多々あります。 
したがって、建主自身が、単なる見積額の高い安いだけでなく、
長期的な視野に立って工務店の選定を行なうことは、とても大切なことなのです。

「#11 建築設計事務所の監理とは?」へ進む

#9  どうしてたくさんの詳細図面が必要か

「#8 住宅の設計期間はどれぐらい必要か」へ戻る

建売住宅や設計施工の家と比較すると、建築家の設計する家は、
実施設計の詳細図面が非常に多いのが一般的です。

実施設計の詳細図面は、施工図面とは異なりますが、
細部に渡って設計意図を表すもので、
これをもとに工務店が積算を行なったり、現場で施工図を検討したりします。

詳細図面で網羅される情報量というのは、
建主とどこまでコミュニケーションを密に行なったかを示す一つの指標ともなるものです。

極端な話をすれば、簡単な平、立、断面図と仕様書だけでも家は建つかもしれません。

しかし、その場合は、見積内容もラフにならざるを得ないでしょうし、
その図面で表現されている情報以外の部分については、
施工者がやりたいように行なうことができ、
仮にそれが建主の意に沿わなくても、文句は言えません。
そして、変更する為には、増額調整が必要となる可能性が高いです。

実際、建売住宅や設計施工方式の家の多くは、
このようなつくられ方で、設計に時間も手間も掛けずに建っていきます。
設計2ヶ月、施工4ヶ月、といった様にです。
設計2ヶ月では、プランを決めて確認申請して設計は終わり、
といった感じでしょう。

設計に手間をかけない理由は、設計施工方式における設計は、
工事を受注する為の営業にすぎないからで、
そこに時間を費やしても利益にはならないからです。

バブルの時代の頃は、設計施工方式でなくても、
建築家も仕事を多く抱えていた為、図面をほとんど描かなかったという話も聞きます。
シングルラインの図面を描いて、
後は現場で口で設計していたという話も聞いたことがあります。
また、描くと見積りで拾われてしまうから描かないんだ、
というような訳の判らないことを言っていた人もいました。 

しかし、これは、想像するに、
施工者が工事受注額の中に相当な粗利益を見込むことが出来たからで、
昨今のように、どこもギリギリのラインで受注に漕ぎ着けているような時代では、
図面に無いものを現場でやる為には、
それ相応の増額手続きが必要になると考えた方が良いでしょう。
図面をきちんと描いていても、
拾い落としたからといってやりたがらないような工務店もいるぐらいの時代なのです。

設計のプロセスで建主と共に積み上げてきた情報を、
詳細図面に可能な限り網羅すること。
これは、僕たち建築家が、実施設計の際に建主のためにできる、
必要最低減のことだと思っています。

これは同時に、
工務店にとっても、きちんと見積もってさえいれば、
バブル期のような現場での不条理な追加工事に怯えずに済み、
気持ちよく仕事ができるはず。。。と、信じたいです。

詳細図面をたくさん描くことは、
建築家が工務店に設計意図を細部まで伝えるというだけでなく、
このように、建主と工務店とのフェアな関係をつくる上でも重要なのです。

「#10 工務店の選定時期を考える」へ進む

#8 住宅の設計期間はどれぐらい必要か

「#7 家づくりとコストマネージメント」へ戻る

建築家との家づくりにはどの程度の期間が必要かご存知でしょうか。

通常の戸建住宅の場合で、設計期間半年+α、工事期間半年、
設計と施工を併せると、合計1年+α程度は、最低限必要と考えるべきでしょう。

長いと思われる方もいるかもしれませんが、いざ始めてみれば、
これでも短いとすら感じるかもしれません。

設計期間半年+αの内訳目安は、
基本設計に2ヶ月、概算調整に1ヶ月、実施設計に2ヶ月、最終見積調整に1ヶ月程度
と考えるとわかりやすいでしょう。
確認申請を、最終見積調整期間中に行うか、それらが済んでから行うかによって、
プラスαの期間が必要になります。

基本設計と実施設計の違いのイメージは、「#5 設計プロセスはデッサンのようなもの」
でも少しお話しましたが、表現を変えて説明しなおすと、
基本設計は、どのような家を建てたいかを決めるステージ、
実施設計は、それをどのように建てるかを詰めるステージともいえます。

実施設計というのは基本的には技術的なステージです。
どのような家を建てたいのかが基本設計の段階で決まっていれば、
ほとんどは、建築家側で詰める作業に充てる時間で占められる為、
比較的期間予測が立ちやすいステージです。

予定通りに行かないケースが多いのは、基本設計のステージや、調整のステージです。

基本設計のステージは、建主と建築家がキャッチボールをしながら、
計画を具体的な案としてまとめていく段階です。
僕の事務所の場合、隔週での直接打ち合わせと、メールでのやりとりなどを繰り返し、
プランや基本的な仕様、デザイン的なイメージなどの計画案をまとめていきます。

このプロセスは、うまく行けば概算調整期間も含めて3ヶ月程度でまとまることが多いですが、
いくらキャッチボールをしても、建主自身が、ヴィジョンや目的が見出せず、
その日の気分で、住みたい家やライフスタイルの考えが変わってしまうような場合だと、
いつまでたってもまとまらない可能性があります。

金額調整のステージというのは、見積額と予算を照らし、優先順位を見極めながら、
理想と現実のギャップを埋めるステージです。
基本設計とは違う意味で、何をやりたいかを決めるステージでもあり、
建主自身がその判断に時間を要すれば、その分全体の工期に影響を与えることになります。

このように、家づくりの設計期間というのは、建築家側の一方的な作業から、
単純に算定できるというものではありません。

そのようなこともあり、僕の事務所では、設計・監理契約を締結する際、
いついつ竣工を目指すのであれば、どんなことをいつまでに決めなければならないかを、
建主に伝えるようにしています。
そして、決断のタイミングと、その他の作業との関係性がわかるように、
詳細スケジュール表をつくり、たとえば、あるポイントの決断が遅れた場合、
必然的に他のどの部分が遅れることになるかがわかるようにしています。

もちろん、裏を返せば、基本設計や金額調整の期間というのは、トントン拍子に決まれば
全体の設計期間を縮めることもできるということですが、一生住むかもしれない家を、
どたばたしながらあまり考えずに決めてしまうのは良いことではありません。

標準的な設計期間ぐらいは、確保するようにしたほうが良いと思います。

「#9 どうしてたくさんの詳細図面が必要か」へ進む

#7 家づくりとコストマネージメント

「#6 リフォームも立派な家づくり」へ戻る

繰り返しになりますが、家づくりというのは、モノを買うプロセスとは違います。

コストの観点から、それはどういうことかといえば、最終的な建物の内容とその工事費が、
設計を始める前から決定することは出来ないということです。

設計のプロセスはデッサンのようなものだというお話を以前しましたが、
家づくりのコストマネージメントについても同様のことが言えます。

通常の家づくりのプロセスでは、建主は設計相談をする際、建築家に要望と予算を伝えます。
ああしたい、こうしたい、そして予算は3000万ですと言った具合にです。
しかし、これは、予算3000万でなんとか家を建てたい、という要望とは異なります。
全ての要望を適えて予算内に納まるかどうかを、設計もしていない段階から確認することは
困難ですし、特に、その予算額が、経験的にぎりぎりのライン上のものであれば、
なおさら厳しいでしょう。

したがって、設計を始める前の段階では、
あくまでも、目安を基準に進めて行く以外に方法はありません。

しかし、目安はあくまでも目安であって、
何も保証するものではないことは言うまでもありません。

僕が以前働いていたイギリスの一般的な建築家委託契約書約款には、
建築家は予算にあわせて、設計内容の調整には協力できるが、
施工者の工事請負額自体は保証できない旨がきちんと記されていました。
これは、発注者側に立って工事発注図書を作る側が、
発注される側の請負額を決められないという、当たり前のことです。
これは、日本でも同じはずですが、意外とこれを理解していない建主は多いのです。

もしも、企画段階から“私はコストを保証する”と言う建築家がいるとしたら、
それはかなり怪しいと考えるべきでしょう。
建築家は工事を請負うわけではありませんから、
施工者ですら算出しようのないこの段階での工事費を、
見極められるわけがないのです。

例えば、少々、安易とも言える建築家が、設計を始める前に設定する目安として、
“坪単価”と呼ばれているものがあります。
昔の宮大工の家や、特定の業者によって開発された規格住宅やプレファブ住宅のように、
同じものを同じようにつくる、さらに、材料も、人区も、それらに対する単価、
請負業者の粗利益率もすべてが同じという条件であれば、
基本的な骨格の部分に限って、坪単価を目安として考えることは出来るかもしれません。
しかし、それにしても、世の相場としてではなく、
個々の施工者にとっての相場としてしか提示し得ないはずです。

この意味では、巷で溢れている坪単価60万だの80万だのといった目安は、
ゼロからつくる家づくりにおいては、ほとんど意味を成さないといってよいでしょう。
意味の無い目安を、しかもリスク側である安い単価を都合よく引用し、
予算内に納まると思い込むことは、非常に危険です。

このようなことは、冷静に考えれば誰しも理解できることなのですが、
意外とこのパターンに陥り、後になって困る建主は多いのです。

それではどのようにコストを考えていくべきなのでしょうか。

コストは、設計図書があってはじめて見積もることができます。
最終的な工事発注額というのは、詳細図面を含む、
実施設計が修了してはじめて算出することができるわけです。

しかし、その一方で、最終的に全ての詳細図面が揃うまで、
全くコストの目安すら立たないというのもリスクがあります。
下手をすれば、全てやり直しに成りかねません。

そこで、コストコントロールを、設計と並行してデッサンのように行なっていく必要があります。

といっても、さほど難しいことではありません。
企画段階、基本設計段階、実施設計段階の各段階で、
信頼できる施工者から概算を取り、計画内容とコストを照らし、
やりたいことの優先順位を見極めながら調整を繰り返し、
リスクを出来るだけ軽減するということです。

このフィードバックを行なわずに設計を進め、
これぐらいなら大丈夫だろうと、小さな増を繰り返していると、
知らず知らずのうちに、調整不可能な状態まで、
予算オーバーしてしまう可能性があります。

もちろん、
企画段階でほぼ納まっているからといって、基本設計で納まるとは限りませんし、
基本設計でほぼ納まっているからといって、実施設計で納まるとも限りません。
また、これらの逆も考えられることです。

理由は、各段階で施工者が拾える数量の精度や、検討できる施工方法、
単価や諸経費の考え方などが異なるからですが、少なくとも、このプロセスは、
坪単価のような無根拠概算よりも、一つの目安としての価値があります。
また、どの辺りをセーブしながら進めるべきかの参考資料としても役立ち、
各段階での概算額の開きを抑える為の、有効な方法のひとつと言えます。

企画段階において、あれもやりたい、これもやりたいと考えることは大切ですし、
はじめから全てを諦めていては、イジけたものしかできません。
しかし、やりたいことがすべて実現できるか、あるいは実現すべきかについては、
段階を踏んで優先順位を見極めながら、確認していく必要があります。

これが、家づくりにおけるコストマネージメントだと思います。

「#8 住宅の設計期間はどれぐらい必要か」へ進む

#6 リフォームも立派な家づくり

「#5 設計プロセスはデッサンのようなもの」へ戻る

僕が以前働いていたことのあるヨーロッパでは、古い建物を購入し、
リフォームや増改築を行って住むというのも、“家を建てる”に等しい行為でした。 

世界的著名な建築家ですら、建築とリフォームとの間に線引きするこはなく、
個人住宅のリフォームもやっていました。

ヨーロッパでリフォームが主流なのは、
もともと、特定エリアの公共施設や商業開発などを除いては、
新築が許可されないエリアが多いということもあります。

ましてや、個人が新しい土地を買って家を建てる際には、
日本で言う街づくり条例的なものや、近隣住民からの反対などによって、
計画許可が下りないケースがあり、
土地を買って家を建てるとか、既存の建物を建替えるというのは、
かなりの勇気が必要なことなのです。

僕自身も、独立前の最後の方で、イギリスの建築設計事務所で働いていた時は、
新築のプロジェクトはやりませんでした。
けれども、新築とリフォームとで、建築家としてやることが違うかと言うと、
ほとんど変わりません。
新築で言う“土地”が、“既存建物”になっただけで、与条件に対して、
オリジナルの住環境をつくりだすプロセスは同じです。
リフォームはたくさんの制約があり、設計の手間も多いですが、逆に、
新築以上に面白いものが生まれる可能性も秘めています。

日本の場合、“リフォーム”と“修繕”とが混同されて使用されるケースも多いせいか、
建築家にリフォームの設計を委託する人は少ないように思います。 
しかし、修繕というのは、古くなった壁紙の張替えや、
設備機器類の取替えなどのお色直しを含む、メンテナンスのことで、
本来のリフォームの意味とは異なります。

リフォームというのは、英語ではRefurbishment(改装)や、
Extension & Alteration(増改築)と言いますが、
単なる表層的な化粧直しではなく、既存の状況から必要な骨格だけをとらえ、
建主のニーズにあわせて新しい住環境を作り上げることです。
ヨーロッパでは、これらは、New Built(新築)と同様に、
建築家の設計業務範囲の一つとして扱われているわけですが、
それは、極めて、自然なことと言えるのです。

「#7 家づくりとコストマネージメント」へ進む

#5 設計プロセスはデッサンのようなもの

「#4 住宅設計コンペとラフプランの違い」へ戻る

家づくりの設計プロセスは、絵画で言う、デッサンのプロセスに似ています。
それは、段階的に、徐々に細部まで詰めていくプロセスであり、
はじめから結果がくっきりと見えるというものではありません。

例えば、人の顔をデッサンをするとき、まつ毛から描く人はいないでしょう。

キャンバスの中にまずは構図をきめるところからはじめるに違いありません。
そのときに引く線は、なるべくやわらかい鉛筆で、筆圧を弱く、だいたいこんな感じ、
と言った程度のあたりから入るのが一般的で、簡単に消して描き直すことも、
あるいは、上からちょっと濃い目の鉛筆で最終的な構図のアウトラインを描くこともできる、
そんな段階です。
家づくりでいうラフプランから基本計画初期のやりとりは、ちょうどこの段階に似ています。

大まかな構図を決めると、デッサンの場合、光の方向を想定し、影で捉えながら、
大きな立体構成を捉えていくのが一般的です。
細かなところは描かれなくとも、どのあたりに鼻、目、口があるかなどが捉えられ、
全体像がある程度想像できるようになります。
これが家づくりにおける基本設計の段階で、プランや階構成、全体のデザインのイメージ、
大まかな仕上げや性能を仮決定する段階です。

次に、デッサンでは細部に入っていきます。細かな凹凸の表現や、質感、模様などが、
鉛筆の硬さや筆圧を使い分けながら表現され描写されていきます。
時間がかかると同時に、作者の技術力によって、できばえが全く異なってくる段階です。
これが、家づくりにおける実施設計の段階で、詳細図を描き、構造や設備、
法規などの技術的な調整を行ない、仕上げや性能も最終的に決定する段階です。

絵画のデッサンでは、各段階で決めなければならないこと、そして、
一旦次のステージに進むと、描き直さない限りは、後戻りが出来ないことがあります。 
また、次のステージでやるべきことを、前のステージでやっても、
あまり意味がないということもあります。

これらのプロセスは、家づくりの設計プロセスにおいても同じです。

うまく伝わるかはわかりませんが、
大きな青写真に向かって、重心を高く保ちつつ、
多少の振り幅を許容しながら、リカバリーを繰り返して最終形に到達する、
というようなイメージです。
重心を低くして足元だけを見ていると、
不安にもなるし、すぐにバランスを崩しそうになります。

これらのイメージは、コストコントロールのプロセスでも同様のことが言えます。

コストコントロールのプロセスについては、他の機会にお話したいと思っていますが、
家づくりは、このようなコストに関するリスクマネージメントとも付き合いながら、
目標に近づいていくプロセスでもあります。

一方、コンビニ文化ということもありますが、
世代によっては、最初から結果を手にしたいと言う気持ちが強い人もいます。 
目標にリスクマネージメントを行いながら近づこうというよりも、
リスクがまったくないこと自体が目標といったようにです。

このような、日本人の目的と手段の逆転現象は、家づくりに限った話ではありませんが、
欧米のような、本来の注文住宅のプロセスや、リノベーションのプロセス、
もしくは、DIYのような、主体的につくる文化が定着してこなかった背景は、
こういう部分にもあるのかもしれません。 

しかし、家づくりのプロセスは車を買うような感覚で行なおうとしても、
それは難しいと言わざるを得ません。

僕の事務所では、初回ラフプランサービスを通じて、建主が、
家づくりを行うことに向いているのかどうかについてもアドバイスすることがあります。

例えば、ケースバイケースではありますが、建売住宅みたいので良いと言う人が、
家づくりのプロセスをわざわざ踏むのは、かならずしも合理的な選択とは限らないからです。

家をつくるか買うか、これは、どちらが良いとか悪いとかいうよりも、
建主自身の人生観や価値観の問題でもあるのです。

「#6 リフォームも立派な家づくり」へ進む

#4 住宅設計コンペとラフプランの違い

「#3 土地と建物のバランス」へ戻る

僕たち建築設計事務所は、通常、正式な設計・監理契約を結ぶ前に、
案をなにがしかのかたちでプレゼンテーションすることが一般的です。

Kimizuka Architectsでは通常、
“ラフプラン”というかたちでこれを行なうようにしています。

ラフプランと、住宅設計コンペの違いはなんでしょう?

住宅設計コンペと言うのは、設計者を選ぶというよりも、
案を選ぶという意味合いが強いと思います。
また、たった1回のヒアリングから、
完成形に近い基本計画図やイメージを提出する場合も多いのが特徴です。

住宅設計コンペでは、建主は応募された中から気に入った案を“選ぶ”ことになります。

しかしながら、これだと、カタログから気に入ったモデルを選んでいるのと変わらず、
どうも、本来の家づくりの趣旨とはかけ離れているような気がしませんか?
“家をつくる”=“デザインを買う”と言うことで良いのでしょうか?

また、住宅設計コンペでの選考理由を、トイレがこっちについていたからとか、
リビングが大きく取れていたからとか、
間取りで判断しようとする建主をみることがありますが、
本来このような類のことは、
どの建築家に頼もうが、設計のプロセスの中で練り上げていけばよいことです。

ただ、どうしても住宅設計コンペの場合だと、提案する方もされる方も、
採用されたらその案でいくという前提があるかのような気持ちになってしまいがちです。

しかし、考えてみると、本来、建主が、この段階で必要なものは、
そのまま建つような案や、
額に入れて飾っておきたいような、きれいなCGや模型写真ではないはずです。

そこで、僕は、直接問い合わせてきてくれた建主に対して、
“ラフプランからはじめましょう”と、いつもアドバイスするのです。

ラフプランは、案そのものではなく、プロセスに比重を置いています。

建主は、ヒアリングの際に様々な要望を建築家に伝えます。
その中には、とりあえず言ってはみたものの、
はっきりと何がしたいのかわかっていないとか、
うまくまとめきれていないということもあるはずです。

また、要望の中には、つじつまがあっていないものや、
全てを満たすと、返って、求めていた住まいとはかけ離れたものになってしまう、
といったようなこともあるかもしれません。

しかし、それは、ある意味当然のことです。

言葉というのは、人と人とがコミュニケーションする上で重要なツールである一方、
人というのは常に自分のことを言葉によって説明できるかというと、そうではありません。
ましてや、
自分たちのライフスタイルや住まいについて、常に言葉によって考えているわけでもないのです。

そのような、未定まらぬ大きな方向性、
自覚していない本当に自分が求めている住まいのヴィジョンについて吟味し、
発見する為の材料として、ラフプランがあります。

僕の事務所では建主に対してヒアリングを行なった後、
具体的な敷地や法条件、予算などと照らし合わせながら、様々な可能性を吟味します。
しかし、それらは、1案にFIXするためのものではありません。
建主とのコミュニケーションの材料に過ぎないと考えています。
建主が、具体的なたたき台を目にすることで、
そこでまた、頭で考えていたこととのギャップや、
新しいなにかに気付いてもらうことを期待しています。

この段階で重要なことは、
建主は建築家とたくさんのことを議論し、自分の住まいについて考えることです。
そして、このプロセスを通じて得られた、大きな方向性、価値観、ヴィジョンは、
実際に設計を進める段階で必ず生きてきます。

設計が始まり、徐々に細かい部分についても決めていかなくてはならない過程において、
ブレない方向性を建主と建築家が共有しているかと言うのはとても重要なことです。

洋服はその日の気分で変えられますが、
家づくりというのは一つ一つのことを、積み上げていくプロセスです。
それぞれのステージで、後戻りが出来なくなることも出てきます。
何かを判断する時、迷った時に、立ち返る場所がないと、
収拾がつかなくなり、場当たり的に継ぎ接いだような、家になりかねません。

そのような意味合いで、僕の事務所では“ラフプラン”のプロセスを提供し、
家づくりのパートナーとして気に入って頂けたら、設計・監理契約を御願いしています。

家を”選ぶ”のではなくて、”つくる”ことを前提としているか。
これが、住宅設計コンペとラフプランの違いです。

「#5 設計プロセスはデッサンのようなもの」へ進む

#3 土地と建物のバランス 

「#2 常識に捉われない」へ戻る。

リフォームの話はまた別の機会とすることにして、家を建てるためには土地が必要です。
もともと土地がある人を除いては、土地探しから家づくりがはじまります。

僕の場合、土地を購入してからの家づくりの相談を受けるケースが多いですが、
土地を買って家を建てる人の中には、
建物や諸経費にかかるコストを軽視している人も少なくありません。
もちろん、総予算が限られるのは仕方が無いことなのですが、
問題は、
土地と建物にあてる予算比率があまりにもアンバランスな人が多いのです。

例えば総予算6000万の人が、4000万の土地を買ってしまったので、
建物と諸経費には2000万しかかけられないといったようにです。
2000万の土地を買い、4000万を建物と諸経費にあてれば、
かなり思い通りの家が建てられるかもしれません。

ここでのポイントは、そこまでして、4000万の土地が必要なのかと言うことです。
もちろん、高い土地と言うのは、交通の便の良さや物理的な広さ、周辺環境、方位、
その他、諸々の条件に恵まれているからなのでしょうが、
この先一生住むかもしれない “家”そのものに対して十分な予算が割り当てられず、
自分たちのライフスタイルにフィットした環境が実現できなくなったとしても、
その土地でなくてはいけないのかということは、きちんと整理しておいた方が良いでしょう。

究極的には、
家づくりがうまく行くか行かないかというのは、
ブレない価値観に基づくお金の使い方にかかっているとも言えるのです。

このようなことから、家づくりにこだわりたいと考える人の中には、
できるだけ安い土地を探そうという人も多いかと思います。
もちろん、掘り出し物とか、うまい話というのは、そうそう転がっているわけではないので、
安い土地を手に入れるためには、
一般的に“良い”とされている条件に対して、優先順位を充てないという発想も必要です。

例えば、
高級住宅でなくてはいけない、
駅から10分圏内でなくてはいけない、
30分以内で都心に通勤できる距離でなくてはいけない、
狭小地は嫌だ、
といった類の条件は、ライフスタイルや価値観によっては、
実はそれほど拘るべきところではないかもしれません。

ただ、専門的な知識なしに、安ければ良いという感覚で土地を探そうとすると、
実は、法的に建物が建てられない土地であったり、
建てられはするが非常に小さな建物しか建てられない土地であったり、
その他、地盤改良や擁壁の構造の問題、
上下水道、ガスの敷地内への引込みがされていないなど、
実際に建物を建てる際に、
余分な費用がかかってしまうような土地もあるので注意が必要です。

最も、全てのリスクを購入前に解決できるかというとそうではないのですが、
少なくとも事前に確認できる点についてはプロなどに相談し、
リスクを最小限に留めておくべきでしょう。

「#4 コンペとラフプランの違い」へ進む

#2 常識に捉われない

「#1 手段より目的が大切」へ戻る。

住宅というのは、本来、建主の価値観次第では、最も制約が少なく、自由度の高い、
無限の可能性を秘めています。

しかしながら、新しい家での自分たちの住まい方を思い描く前に、
家とはこんなものだという固定観念があり、
その呪縛から逃れられないという人は少なくありません。
コスト的にも、技術的にも、やりようがあっても、
ちょっと他の家と違うプランや、
ちょっと普通よりも快適性の高い空間をつくることに、
なぜか尻ごみしてしまう。
そんな人は意外と多いのです。

常識に捉われないために必要なことは、何がやりたいのかという、
目的を明確にすることだと思います。
もちろん、常識というのは、昔からの習慣などから形成されてきたもので、
それはそれで、リスペクトすべきことですが、
その中には、形式として残ってはいるけれども、
現代人の生活には必ずしもそぐわないものもあるのです。

幾つかの事例を挙げながら考えて見ましょう。

① 玄関
メインの出入口として、通常独立した玄関スペースが設けられます。
扉は外開きで、中には外履きエリアが一皮あり、
内履きエリアは1段上がって始まるのが一般的とされていますが。。。。

例えば、
狭小住宅のような場合でスペースを有効に居住エリアとして使いたい場合など、
本当に独立した玄関スペースが必要かというのは、建主次第ともいえます。
また、扉については、敷地境界との位置関係によっては、
雨仕舞いをきちんとすることで、
欧米のように内開きとしたほうが良いケースもあります。
内開きとする場合は、内履きと外履きの段差については、
むしろないほうが邪魔にならなくて良いでしょう。
外履きエリアと内履きエリアの境界のわかりにくさについては、
床仕上げを変えるなどの工夫で対処出来るでしょう。

② 廊下
最近は徐々になくなってきていますが、玄関から入ると、
暗い廊下が寝室や居間まで伸びているというのが一般的とされてきましたが。。。。

部屋と部屋を結ぶ“廊下”は、部屋が壁で閉じていることによって、
奥の部屋にたどり着く為に必要となってきます。
しかし、狭いスペースをわざわざ壁で仕切り、廊下を設ける必要が本当にあるのか、
廊下を部屋の一部に取り込むことで、広がりのある共用部がつくれたりはしないか。
目的さえしっかりと見据えれば、
廊下はむしろ無駄なスペースと見えてくる場合もあります。

③ 寝室
4畳半、6畳、8畳といった単位で考えられ、
押入等が隣接しているのが一般的とされていますが。。。。

寝室の目的によって寝室の広さはもっと柔軟に考えることが出来ます。
例えば、生活の中心は共用部にあり、寝室は本当に寝る為だけでよければ、
ベッドか布団のスペースがあれば十分ということになります。
布団の場合は室内に押入れが必要ですが、
ベッドであれば、押入れは必要ないかもしれません。
衣類やリネン、その他の為のクローゼット等は必要でしょうが、
物理的な条件によっては、寝室の中にある必要はないかもしれません。
寝室を必要最小限に抑えることで、
共用部やエキストラの書斎などのスペースを確保できる可能性もあります。

④ リビング、ダイニング
リビング(団欒の間)とダイニング(食事の間)は別々のスペースとして設けられるのが
一般的とされていますが。。。。

リビングとダイニングはどうして別々のスペースでなくてはいけないのでしょうか。
狭小住宅のような場合は、リビングダイニングとして一体化してしまうほうが、
むしろ快適な生活が実現できる場合もあります。

⑤ キッチン
最近では、ダイニングと一体化したアイランドキッチンも一般的になってきましたが、
依然として、北側にあるべきだとか、
人には見られないように閉じた“台所“として計画すべきと考える人もいますが。。。。

冷蔵庫の無い時代ではないので、北側にある必要はないでしょうし、
台所が非衛生的な裏のスペースと考える発想や、
女性だけの場所と考える発想は、時代錯誤的とも言えます。
男も女もキッチンに立ち、家族と話しながら炊事をすることが一般的な現代においては、
キッチンを台所として独立させなければならないというのは、
必ずしも根拠があることではありません。
むしろ、小さな子供がいるような家では、
炊事をしながら子供を見ていられるようなスタイルの方が好ましいとさえ言えるでしょう。

⑥ バスルーム
トイレ、洗面、浴室は別々で、
浴室は、外で体を洗い、湯船につかるというのが一般的とされていますが。。。。

欧米では、トイレ、洗面、浴室は一つのスペースの中にあり、
体はバスタブの中で洗います。
最近では、シャワーブースとバスタブを設ける家もあります。
日本のように狭い家では、このようなスタイルを採用した方が、
間仕切りをなくすことで、広々として快適なバスルームがつくれるという考え方もあります。
トイレとバスルームを一体とすべきがどうかは賛否両論ありますが、
一日の疲れを癒す場所は、
本来リビングに匹敵するくらいに快適に作られるべきであって、
単に用を足すバックヤードとして考えるのは必ずしも合理的とは言えません。
また、洋風バスタブは、浅いですが、細長く、横になれるため、
老人介護などが近い将来必要となった場合においても使いやすいという考え方もあります。

⑦ 洗濯機置場
バスルームの洗面脱衣スペースに設けるのが一般的とされていますが。。。。

欧米では、キッチンカウンターの下や、ランドリー室など、
バスルーム内に洗濯機置場が無いケースの方がむしろ多くみられます。
そもそも、洗濯機がバスルーム内に無くても、
脱いだ服を籠に入れて洗濯機まで持っていけばよいだけの話で、
洗濯機を使う側の立場に立てば、
炊事をしながら洗濯機も回す人には、キッチンの近くにあったほうが便利ともいえますし、
外に洗濯物を干すことが多いのであれば、
バルコニーや庭に出やすい位置にあった方が良いという考え方もあります。

上で挙げた例は、機能に対するスペースの考え方についてですが、
そもそも、機能とスペースを一対一で考えなくてはならないという決まりもありません。
例えば、住まい手のライフスタイルによっては、
“寝室“として独立した部屋が必要のないという人もいるかもしれません。
家全体をいくつかの空間の連なりと捉え、
どの空間が何の為の空間かはその日の気分で決めたいと言うような人もいるかもしれません。

要するに、家づくりは、考え方次第で可能性は無限に広がり得るものなのです。
せっかく、一生に一度かもしれない機会、誰の為でもない、
自分たちの為の家づくりなのですから、
手にした自由を有効に活用すべきだと思います。

「#3 土地と建物のバランス」へ進む。

#1 手段より目的が大切

住まいづくりを考える際、その入り方というのは、実はとても大切です。

しかしながら、そもそも、“良い住まいとは何か”などということを、
意識的に考えながら日常生活を送っている人はそれほど多くはないはずです。

しばしば、家づくりを思い立った建主が陥りがちな入り方は、
目的ではなく、手段から入ってしまうパターンです。

例えば、
「4LDKがいい」
「外張断熱の家がいい」

前者は間取り形式から入り、後者は断熱仕様から入っているわけですが、
いずれもこれらの要望からは、建主の価値観やライフスタイルを伺い知ることは出来ません。
恐らく、言っている当人もイメージできていないことが想像できます。

土地があって、ゼロから家づくりを考えられるのに、
分譲住宅の検索条件のようなキーワードから入ってしまうのは、とてももったいない話です。
逆に言うと、
形式や性能というものは、建築家が建主の目的やヴィジョンを確認した上で、
敷地条件や予算などを考慮しながら具体的な提案を行い、
それに対して建主がリアクションを返せばよいことでもあるのです。

一番大切なことは、
住まい手が、新しく建てようとする自分たちの家で、どのような生活を送りたいかという、
住まいをつくる“目的”です。
それは、隣の家がそうだからとか、
テレビのCMで宣伝していたからといった受身的な理由からではなく、
冷静になって自分たちのライフスタイルや価値観と向き合うことから導かれるべきでしょう。

大きな敷地に予算の上限なく好きなように建てられるという状況は通常はありません。
しかし、様々な制約がある中でも、
住まい手にとっての豊かさを、可能な限り実現することは、不可能ではないかもしれません。
ただそのためには、より本質的なアプローチが必要なのです。

形式や性能といった手段から入ることは、
自ら余分な制約を与えているのと同じで、
結果として、住まいの可能性を狭めてしまうことにもなりかねません。
一方で、本当にやりたいことを明確にすることは、フットワークを軽くし、
そこへたどり着くための様々な方法を、
柔軟性を持って吟味することを可能にすることがあります。
そのような状況になれば、
建築家をはじめとするプロの提案力を、もっと効果的に活用できるかもしれません。

「#2 常識に捉われない」へ進む。

家づくりのはじまり

施主の為の家づくりプロセス一覧へ(随時更新)

家づくりのはじまり

生活の3大要素である衣食住。
日本の衣食は、世界とひけを取らないレベルにまで発展してきたにもかかわらず、
住環境だけが、相変わらずどうも冴えないのはなぜでしょう。

日本の住環境が活き活きとしない大きな要因の一つは、
そこに住まう個々の価値観やライフスタイルとは無関係に、
供給者側の都合によってつくられた一方的な“形式”の中での生活を、
多くの人々が強いられている、あるいは、自ら強いているからかもしれません。

例えばnLDKといった形式。
これは、戦後の住宅量生産時代に浸透した間取りの形式で、
人の生活を、就寝、団欒、食事、炊事といった行為に単純化し、
それらに専用のスペースを与えることが、
”豊か”で”機能的”だと思われていた時代のものです。
高度経済成長期の核家族を想定した2LDKや3DKといった間取りは、
公団の集合住宅や、建売分譲住宅などの量産住宅に採用されてきました。
当時の時代背景による必然性のあるなしは別にして、
問題は、未だに、家を借りたり買ったりする際、
そのような”形式”から考えてしまう習慣があるということです。
しかし、同じ2LDKでも、120m2のものと50m2のものとでは、
全く異なる住環境となることは言うまでもありませんし、
50m2の家にそこまでして部屋数を確保することが、
自分たちのライフスタイルにフィットするとも限りません。

そもそも、居室と言う単位で”間取り”を考えることが本当に有効なのか、
“機能的”とは何を基準に判断すべきことなのか。
自分の土地に家を建てようと言う人や、
自分の家をリノベーションしようという人は、
少なくとも、このような既製の”形式”に縛られて家を考える必要はありません。

しばしば、家は買うものではなく建てるものだといわれますが、
この両者の違いは、
既に出来上がっている”結果物”を品定めして得る行為と、
建築家や施工者などのプロの能力を駆使して、
ゼロから”モノを作るプロセス”を得る行為の違いです。
既製の形式にライフスタイルを合わせるのではなく、
ライフスタイルにあった環境を生み出す自由を獲得することが、
家を建てるという行為です。

当然のことながら、
この住まい手の価値観や人生観を、じっくりと具体化していくプロセスは、
ある程度の生みの苦しみと時間を必要とします。
我々は設計者として提案は致しますが、
予算との折り合いも含め、最終的に取捨選択する判断は、
住まい手自身にかかっています。
けれども、そうやって、ひとつひとつのことを噛み締めながらつくられた家には、
単なる”結果物”として以上の、
かけがえのない”意味”という豊かさが宿るに違いありません。

多様な価値が認められ、共存しなければならない現代社会では、
中世の街並みのように、全ての家が同じ形式を纏うとことは不自然ですし、
そのような時代を真似ようとしても、
人工的で表層的な住環境にしかたどり着かないでしょう。

一方で、個々の住まい手が、自らと向き合うことによって得た、
素直に豊かだと感じられる意味と価値の蓄積が、
街や地域全体に浸透していったとき、
日本の住環境は、誰の目から見ても活き活きとしたものになるのではないでしょうか。

なぜならば、
一番大切なことは、
そこに住まう人々が、楽しく快適であると感じる日常を送れることだからです。

それでは、そのような家づくりのプロセスは、
どうやって手に入れることが出来るのか。

施主の為の家づくりのプロセスのヒントを、
このコーナーでは紹介していきたいと思います。

「#1 手段より目的が大切」へ進む