#5 設計プロセスはデッサンのようなもの

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家づくりの設計プロセスは、絵画で言う、デッサンのプロセスに似ています。
それは、段階的に、徐々に細部まで詰めていくプロセスであり、
はじめから結果がくっきりと見えるというものではありません。

例えば、人の顔をデッサンをするとき、まつ毛から描く人はいないでしょう。

キャンバスの中にまずは構図をきめるところからはじめるに違いありません。
そのときに引く線は、なるべくやわらかい鉛筆で、筆圧を弱く、だいたいこんな感じ、
と言った程度のあたりから入るのが一般的で、簡単に消して描き直すことも、
あるいは、上からちょっと濃い目の鉛筆で最終的な構図のアウトラインを描くこともできる、
そんな段階です。
家づくりでいうラフプランから基本計画初期のやりとりは、ちょうどこの段階に似ています。

大まかな構図を決めると、デッサンの場合、光の方向を想定し、影で捉えながら、
大きな立体構成を捉えていくのが一般的です。
細かなところは描かれなくとも、どのあたりに鼻、目、口があるかなどが捉えられ、
全体像がある程度想像できるようになります。
これが家づくりにおける基本設計の段階で、プランや階構成、全体のデザインのイメージ、
大まかな仕上げや性能を仮決定する段階です。

次に、デッサンでは細部に入っていきます。細かな凹凸の表現や、質感、模様などが、
鉛筆の硬さや筆圧を使い分けながら表現され描写されていきます。
時間がかかると同時に、作者の技術力によって、できばえが全く異なってくる段階です。
これが、家づくりにおける実施設計の段階で、詳細図を描き、構造や設備、
法規などの技術的な調整を行ない、仕上げや性能も最終的に決定する段階です。

絵画のデッサンでは、各段階で決めなければならないこと、そして、
一旦次のステージに進むと、描き直さない限りは、後戻りが出来ないことがあります。 
また、次のステージでやるべきことを、前のステージでやっても、
あまり意味がないということもあります。

これらのプロセスは、家づくりの設計プロセスにおいても同じです。

うまく伝わるかはわかりませんが、
大きな青写真に向かって、重心を高く保ちつつ、
多少の振り幅を許容しながら、リカバリーを繰り返して最終形に到達する、
というようなイメージです。
重心を低くして足元だけを見ていると、
不安にもなるし、すぐにバランスを崩しそうになります。

これらのイメージは、コストコントロールのプロセスでも同様のことが言えます。

コストコントロールのプロセスについては、他の機会にお話したいと思っていますが、
家づくりは、このようなコストに関するリスクマネージメントとも付き合いながら、
目標に近づいていくプロセスでもあります。

一方、コンビニ文化ということもありますが、
世代によっては、最初から結果を手にしたいと言う気持ちが強い人もいます。 
目標にリスクマネージメントを行いながら近づこうというよりも、
リスクがまったくないこと自体が目標といったようにです。

このような、日本人の目的と手段の逆転現象は、家づくりに限った話ではありませんが、
欧米のような、本来の注文住宅のプロセスや、リノベーションのプロセス、
もしくは、DIYのような、主体的につくる文化が定着してこなかった背景は、
こういう部分にもあるのかもしれません。 

しかし、家づくりのプロセスは車を買うような感覚で行なおうとしても、
それは難しいと言わざるを得ません。

僕の事務所では、初回ラフプランサービスを通じて、建主が、
家づくりを行うことに向いているのかどうかについてもアドバイスすることがあります。

例えば、ケースバイケースではありますが、建売住宅みたいので良いと言う人が、
家づくりのプロセスをわざわざ踏むのは、かならずしも合理的な選択とは限らないからです。

家をつくるか買うか、これは、どちらが良いとか悪いとかいうよりも、
建主自身の人生観や価値観の問題でもあるのです。

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