#7 家づくりとコストマネージメント

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繰り返しになりますが、家づくりというのは、モノを買うプロセスとは違います。

コストの観点から、それはどういうことかといえば、最終的な建物の内容とその工事費が、
設計を始める前から決定することは出来ないということです。

設計のプロセスはデッサンのようなものだというお話を以前しましたが、
家づくりのコストマネージメントについても同様のことが言えます。

通常の家づくりのプロセスでは、建主は設計相談をする際、建築家に要望と予算を伝えます。
ああしたい、こうしたい、そして予算は3000万ですと言った具合にです。
しかし、これは、予算3000万でなんとか家を建てたい、という要望とは異なります。
全ての要望を適えて予算内に納まるかどうかを、設計もしていない段階から確認することは
困難ですし、特に、その予算額が、経験的にぎりぎりのライン上のものであれば、
なおさら厳しいでしょう。

したがって、設計を始める前の段階では、
あくまでも、目安を基準に進めて行く以外に方法はありません。

しかし、目安はあくまでも目安であって、
何も保証するものではないことは言うまでもありません。

僕が以前働いていたイギリスの一般的な建築家委託契約書約款には、
建築家は予算にあわせて、設計内容の調整には協力できるが、
施工者の工事請負額自体は保証できない旨がきちんと記されていました。
これは、発注者側に立って工事発注図書を作る側が、
発注される側の請負額を決められないという、当たり前のことです。
これは、日本でも同じはずですが、意外とこれを理解していない建主は多いのです。

もしも、企画段階から“私はコストを保証する”と言う建築家がいるとしたら、
それはかなり怪しいと考えるべきでしょう。
建築家は工事を請負うわけではありませんから、
施工者ですら算出しようのないこの段階での工事費を、
見極められるわけがないのです。

例えば、少々、安易とも言える建築家が、設計を始める前に設定する目安として、
“坪単価”と呼ばれているものがあります。
昔の宮大工の家や、特定の業者によって開発された規格住宅やプレファブ住宅のように、
同じものを同じようにつくる、さらに、材料も、人区も、それらに対する単価、
請負業者の粗利益率もすべてが同じという条件であれば、
基本的な骨格の部分に限って、坪単価を目安として考えることは出来るかもしれません。
しかし、それにしても、世の相場としてではなく、
個々の施工者にとっての相場としてしか提示し得ないはずです。

この意味では、巷で溢れている坪単価60万だの80万だのといった目安は、
ゼロからつくる家づくりにおいては、ほとんど意味を成さないといってよいでしょう。
意味の無い目安を、しかもリスク側である安い単価を都合よく引用し、
予算内に納まると思い込むことは、非常に危険です。

このようなことは、冷静に考えれば誰しも理解できることなのですが、
意外とこのパターンに陥り、後になって困る建主は多いのです。

それではどのようにコストを考えていくべきなのでしょうか。

コストは、設計図書があってはじめて見積もることができます。
最終的な工事発注額というのは、詳細図面を含む、
実施設計が修了してはじめて算出することができるわけです。

しかし、その一方で、最終的に全ての詳細図面が揃うまで、
全くコストの目安すら立たないというのもリスクがあります。
下手をすれば、全てやり直しに成りかねません。

そこで、コストコントロールを、設計と並行してデッサンのように行なっていく必要があります。

といっても、さほど難しいことではありません。
企画段階、基本設計段階、実施設計段階の各段階で、
信頼できる施工者から概算を取り、計画内容とコストを照らし、
やりたいことの優先順位を見極めながら調整を繰り返し、
リスクを出来るだけ軽減するということです。

このフィードバックを行なわずに設計を進め、
これぐらいなら大丈夫だろうと、小さな増を繰り返していると、
知らず知らずのうちに、調整不可能な状態まで、
予算オーバーしてしまう可能性があります。

もちろん、
企画段階でほぼ納まっているからといって、基本設計で納まるとは限りませんし、
基本設計でほぼ納まっているからといって、実施設計で納まるとも限りません。
また、これらの逆も考えられることです。

理由は、各段階で施工者が拾える数量の精度や、検討できる施工方法、
単価や諸経費の考え方などが異なるからですが、少なくとも、このプロセスは、
坪単価のような無根拠概算よりも、一つの目安としての価値があります。
また、どの辺りをセーブしながら進めるべきかの参考資料としても役立ち、
各段階での概算額の開きを抑える為の、有効な方法のひとつと言えます。

企画段階において、あれもやりたい、これもやりたいと考えることは大切ですし、
はじめから全てを諦めていては、イジけたものしかできません。
しかし、やりたいことがすべて実現できるか、あるいは実現すべきかについては、
段階を踏んで優先順位を見極めながら、確認していく必要があります。

これが、家づくりにおけるコストマネージメントだと思います。

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