#10 工務店の選定時期を考える

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建築家との家づくりでは、工務店と建主との間で締結される工事請負契約は、
実施設計が終わり、確認申請済証も下りた後に行なうことが一般的です。
一方で、非公式な形であれ、工務店選定自体の時期については、
考え方によってわかれるところです。

古典的には、実施設計が修了したあとに、工務店から本見積を取る段階で
工務店を選定するというのがあります。
しかしながら、以前お話したように、全国共通単価と言うものが存在しない
日本の建設産業の現状や、規格住宅や昔の紋切り型の家と違って、
坪単価的な目安が適用できない現代住宅の性格を考えると、
本見積でいくら出てくるかを事前に予測することは難しいと言えるでしょう。

実施設計修了後に始めて工務店から見積を取った結果、
予算に対して1割程度の増減幅の金額がでてくる分には、
調整のしようはあるかもしれませんが、
予算に対して倍近い金額で出てきた場合などでは、
基本設計からやり直しをしなくてはいけなくなる可能性もあります。
既に、実施設計まで修了している段階でこれを行なうことは、
費用と時間の浪費に繋がります。

このようなリスクを回避するために、
正式な選定は実施設計終了後の工事契約時ではありますが、
工務店を設計の初期の段階でしぼり、段階的に概算を何回かとることで、
工事費の目安を把握しながら設計を進めるという方法があります。
ただ、このような、プロセスは、付き合ってくれる工務店とそうでない工務店があります。
工事受注が確定していない案件の見積りに何度もつき合わされるのはごめんだ、
という工務店もいれば、
見積は工事受注の為の営業であり、
なおかつ、
設計の初期の段階からプロジェクトの内容を知ることは、
実施設計の本見積りの際にゼロから内容を把握する手間を省ける、
と考えるところもあります。

工務店を非公式な形であれ一社に絞る時期は、
基本設計概算調整後、ある程度の計画内容に対する工事費の目安がたった時期、
としたいところですが、この時に注意しなくてはならないのは、
そこで、非公式に工務店を一社に絞ったからと言って、
基本設計概算額=工事発注額という保証は得られないということです。

実施設計の過程で、建主自身による変更事項や、法的な調整、
設備・構造などの技術的な調整、そして、施工者による最終的な本見積の際の、
正式な数量拾いや施工方法の検討、専門業者との値交渉などによって、
基本設計概算と、実施設計本見積との間には差が生じる可能性があります。
計画的に目立った変更がなかった場合で、この差が1割程度で説明もつくものであれば、
その工務店の基本設計概算の精度はまずまずだったと評価できるラインと考え、
必要に応じた設計内容の調整を行なうことが一般的です。

逆に、基本設計後、計画的に目立った変更をしていないにも拘らず、
実施設計本見積額との差が倍になってしまったというようなケースでは、
基本設計概算自体の精度が低かったということになるので、
他の工務店から見積りを取り直すことも考えるべきかもしれません。
最も、このようなケースが生じるのは、
基本設計概算額が、常識的に考えられないくらい安い金額だった場合もありえます。
したがって、基本設計概算時の工務店の絞り込みにも注意が必要です。 

建主にとって、
工務店を絞り込む際に見積額が大きな判断基準になることは当然ではありますが、
一方で、
本来は、その工務店の品質管理能力や技術力、
設計事務所の設計した建物の施工の慣れ不慣れ、
アフターケアの良し悪し、
所長の人間性との相性などから総合的に判断し、
その工務店の単価基準に応じて計画内容と工事費を調整していくべきでしょう。

これは我々設計事務所にも言えることですが、
自分達の選定理由が、自分達の能力が必要とされているからと感じる場合と、
自分達が単に安いからと感じる場合とでは、モチベーションもまったく変わってくるからです。
この工務店に施工を頼みたいと言うのがまずあって、
予算にあわせて計画内容と工事費を調整していく方が、
最終的には良い結果を生む場合も少なくありません。
人を使ってモノを作るというのは本来そういうものだからです。

僕のところでは、その意味で、基本設計概算時に工務店を絞り込む際には、
必ずその工務店の所長に直接会って話を聞いたり、
可能であれば建設中の現場見学も積極的に行なうことを助言しています。
建主(工事発注する側)と工務店(工事発注される側)との関係は、
竣工後、アフターケアや瑕疵担保責任などで最低10年は続いていくものです。
また、我々設計事務所がどのような設計や監理を行おうとも、
実際に毎日現場で作業をして施工するのは工務店ですから、
工務店の選定によって建物としての施工品質が左右される場合も多々あります。 
したがって、建主自身が、単なる見積額の高い安いだけでなく、
長期的な視野に立って工務店の選定を行なうことは、とても大切なことなのです。

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